祖父が九十歳で大往生を遂げた時、私は母と共に葬儀の準備に追われました。祖父は地域の名士で、会社も経営していたため、祭壇の両脇には飾りきれないほどの供花がずらりと並びました。会社関係、取引先、地域の団体、そして遠方の親戚から。その光景は、祖父が生涯をかけて築き上げてきた人との繋がりの証であり、誇らしく思うと同時に、母と私は途方に暮れました。「これ、全部にお返しをしないといけないのかしら」。葬儀後、供花の名札を整理しながら、母は深いため息をつきました。私たちは、香典返しと供花のお返しは別物だと考えており、その膨大な数に圧倒されてしまったのです。何から手をつけて良いか分からず、私たちは葬儀を担当してくれた葬儀社のベテランプランナーの方に相談することにしました。すると、プランナーの方は穏やかな口調でこう教えてくれました。「お香典と御供花の両方をいただいている方には、お香典返しに感謝の気持ちをまとめれば十分ですよ。問題は、御供花だけをくださった方ですね」。その言葉に、私たちの目の前の霧が少し晴れた気がしました。私たちは、プランナーの方のアドバイスに従い、まずリストを整理しました。香典と供花の両方をいただいた方、供花のみをいただいた会社関係、そして供花のみをいただいた個人の方、という三つに分類したのです。そして、供花のみをいただいた方々にだけ、お返しを用意することにしました。会社宛には、部署で分けられるように日持ちのする焼き菓子の詰め合わせを。個人の方には、祖父が好きだった地元の銘茶を「志」として送りました。もちろん、すべての方に、感謝の気持ちを綴ったお礼状を添えました。この一連の作業は大変でしたが、名札の一つひとつを見ながら、「この方は、祖父とゴルフ仲間だったな」「この会社には、若い頃お世話になったと話していたな」と、祖父の人生を改めて振り返る、かけがえのない時間にもなりました。供花のお返しは、単なる義務的な作業ではありません。それは、故人が残してくれた縁を、遺された私たちが引き継ぎ、感謝を伝えていくための、大切な儀式なのだと、祖父は最後に教えてくれたのです。
祖父の葬儀、供花のお返しで学んだこと