葬儀に際して、故人が生前お世話になった勤務先や取引先から、祭壇を彩る美しい「供花(きょうか・くげ)」をいただくことは、ご遺族にとって大きな慰めとなります。この温かいご厚意に対して、どのように感謝の気持ちを伝えれば良いのか、特に「お返し」は必要なのかどうかは、多くの方が悩むポイントです。まず、基本的な考え方として、会社名義でいただいた供花に対しては、原則として品物による「お返し(香典返しのようなもの)」は不要とされています。その理由は、供花が会社や組織の「福利厚生規定(慶弔見舞金規定)」に基づいて経費として支出されている場合が多く、従業員個人からの私的なお見舞いとは性質が異なるためです。この場合、品物でお返しをすることは、かえって相手方の経理処理を煩雑にさせてしまう可能性もあります。したがって、会社名義の供花へのお返しは、品物ではなく、「感謝の気持ちを伝えること」に重点を置くのが、最もスマートで適切なマナーとなります。具体的な方法としては、まず、忌引き休暇明けの出社の際に、直属の上司や社長、そして総務・人事部の担当者へ直接、口頭で御礼を述べることが第一です。その上で、後日、より丁寧な形で感謝を伝えるために、「礼状(お礼状)」を送付します。礼状は、会社の代表者(社長など)宛に、喪主の名前で出すのが正式です。そこには、供花をいただいたことへの心からの感謝、葬儀が無事に終わったことの報告、そして今後も変わらぬご指導をお願いする言葉などを綴ります。もし、何か形として感謝を表したい場合は、部署の皆で分けられるような個包装のお菓子の詰め合わせなどを持参し、「皆様で召し上がってください」とお渡しするのが良いでしょう。大切なのは、高価な品物でお返しをすることではなく、組織として示してくださった弔意に対して、社会人として、そして遺族として、誠実に感謝の意を表明することなのです。